薬局製剤の現状と展望

2013年10月 第46回 日薬学術大会発表より
松原市薬剤師会 イソノ薬局 磯野 元三
(大阪府薬剤師会 薬局委員会)


薬学教育6年制薬局実務実習の府薬集合型実務実習で薬局製剤の講義を担当している。平成25年9月の日本薬剤師会学術大会大阪大会で口頭発表を行ったので,その時の発表内容を報告する。口頭発表タイトルは「薬局製剤の現状と展望」,薬局製剤の最近の動向と現状を把握し,薬局製剤・漢方製剤の取り扱い薬局を増やすことを目的に発表を行った。

発表の目的

薬局製剤・漢方製剤は,改正薬事法により平成17年に「薬局製造販売医薬品」という名称になり,平成21年に「薬局医薬品」に分類された。また,薬学教育では薬局実務実習LSに盛り込まれ,6年制薬剤師は大学と薬局の両方で薬局製剤・漢方製剤の概説と調製を学習している。
このように土台が広まり,薬局製剤・漢方製剤を取り巻く環境は良くなっているが,薬局製剤製造業許可,薬局製剤製造販売業許可を申請している薬局は,年々減少しているのが現状である。今後もこの減少傾向が続くと,薬局製剤・漢方製剤とういう制度自体の消滅が危惧される。そこで,今後の薬局製剤・漢方製剤のさらなる普及と取り扱い薬局の増加を目的として,薬局製剤の調製方法と販売方法を紹介した。

発表内容について

薬局数、薬局製剤製造業許可数の推移図1は,全国の薬局数と薬局製剤製造業許可を 申請している薬局数(医薬品製造業者拠出金を支払っている薬局)の推移を表したグラフである(日薬より提供)。縦棒が薬局数,折れ線が薬局製剤・漢方製剤を取り扱う薬局数である(左端が平成元年,右端が平成23年)。日本の薬局数は平成元年の3万1千軒から5万4千軒に増加している。しかしそれとは逆に,薬局製剤・漢方製剤を取り扱う薬局数は1万8千軒から7千2百軒に減少している。平成元年には薬局の60%が薬局製剤製造業許可を申請していたが,平成23年には日本の全薬局数のたった13%しか薬局製剤・漢方製剤を取り扱わないという現状になっている。このまま減少が続くと,将来的に,薬局製剤・漢方製剤である「薬局における医薬品製造販売業」が消滅してしまう恐れがある。それは同時に,日本から「漢方薬局」「きざみ漢方薬」がなくなる可能性を示唆している。

平成17年の通知により,薬局製剤・漢方製剤は「薬局製造販売医薬品」という名称になった(通称:薬局製剤・漢方製剤)。薬局製造販売医薬品は読んで字のごとく,薬局で医薬品を製造し,その薬局で直接消費者に販売する医薬品である。薬事法第22条において,薬局で医薬品を製造しその薬局で直接販売する場合に限り,薬局製造販売医薬品が特例として認められている。この薬事法第22条は,薬局製剤・漢方製剤をあらわした一文であるとともに,薬局薬剤師に対する信頼を表しているともいえる。この大いなる信頼と期待に応えると同時に,薬局薬剤師は薬局製剤・漢方製剤(薬局製造販売医薬品)を将来に引き継いで行かなければならない。
薬学教育6年制における薬局実務実習で,「薬局製剤・漢方製剤を概説できる,調製できる」が実習項目に入った。この実務実習に対応するため,大阪府薬剤師会では,内服薬の総合感冒剤13号A,漢方製剤の葛根湯,外用薬のU・Hクリームの3種類の薬局製剤実習キットを作成して,指導薬剤師に活用いただいている。今回の口頭発表では,この3種類の中から,U・Hクリームの調製方法を動画で紹介した。そして,口頭発表を聞いている皆さまの薬局で試作品を作成し,ご自身でお試しいただき,「こんなに簡単に医薬品の製造ができるのだ」と実感していただけたら幸いだとお伝えした。薬局製剤U・Hクリーム
図2は,U・Hクリームの処方で「薬局製剤業務指針」に記載されている。U・Hクリームは尿素を10%含むクリーム基剤で,効能・効果は,「手・指のあれ,ひじ・ひざ・かかと・くるぶしの角化症,小児乾燥性の皮膚,老人の乾皮症,さめ肌」と,年齢を問わず全身に使用できる薬局製剤である。尿素を含有する製剤は,ケラチナミンコーワクリーム,ウレパールクリームなどの医療用医薬品のみならず,一般用医薬品や医薬部外品として広く販売されている。

薬局製剤を販売するには,医薬品の製造販売業であるので「表示」「添付文書」「封」及び「製造記録」が必要になる。医薬品としての必要事項を,記載・添付・記録しなければならないが,コンピュータ機器の発達によりラベル・シールは簡単にデザイン・印刷できるようになり,添付文書は薬局製剤業務指針第5版付属のCD?ROMで提供されている。さらに,印字付き自動分包機も身近になり,カラフルな軟膏容器なども豊富に販売されている。これらを用いて薬局製剤を各薬局のオリジナル医薬品,プライベートブランド医薬品として製造販売することで薬局の特徴を出すことが可能である。

発表を終えて

今後,薬局製剤指針の一部改正が予定されている。材料が入手困難な原薬は入手可能な倍散に変更され,日本薬局方の改正に伴う記載の整備が行われる。また,日本薬剤師会が新規処方として要望していたかぜ薬や抗ヒスタミン薬など,一般の薬局製剤13種類と漢方処方製剤24種類の計37処方の追加が検討されている。販売の面では平成26年6月に改正薬事法が全面的に施行され,薬局製剤・漢方製剤の特定販売(電話相談販売やインターネット販売等)が可能になる見通しである。
平成26年1月,調剤優先の薬局が大半を占める現状で,厚生労働省は「薬局の求められる機能とあるべき姿」を公表した。ここでは,薬局は地域に密着した健康情報の拠点となるように求められている。4月からは薬局で自己採血による簡易検査も行えるようになった。
薬局の三大業務は,処方せん調剤,医薬品の販売,医薬品の製造である。薬局が薬局製剤製造業許可を取って薬局製剤・漢方製剤を取り扱うことにより,また薬剤師が医薬品原料の調達,医薬品の製造,医薬品の販売のすべてを取り扱うことにより,今以上の薬局・薬剤師業務の“見える化”に繋がると考える。
最後に,U・Hクリームは尿素と親水軟膏があれば製造できる。この記事をお読みの皆さまにも一度試作していただければ光栄である。U・Hクリームの作り方は,YouTubeで「薬局製剤」と入力し検索していただくと閲覧できる。

大阪府薬雑誌 2014年6月号掲載 Vol.65, No.6 (2014)